綾日記 (その三)
 
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1.盆供養の和尚の法衣清々し白の下着に絽むらさきのあや

 

2.この夏は妹の初盆会に参列しこころをこめて読経唱う

 

3.ひまわりの鉢にはえ伸びし朝顔は首たるる茎に巻きつきて咲く

 

4.ゆりぼたんなど賞でるより道ばたのたんぽぽめでるやさしさ欲しく

 

5.仲秋の月見の会に集まりて卆寿の姥とならびて語る

 

6.月見会すすき桔梗の生けられてお団子汁うまし昔ばなしはずむ

 

7.濃く赤き花の舌まく彼岸花毒々しさに妖しさ秘むる

 

8.赤々と彼岸花咲きあげは蝶の蜜吸うさまは毒に酔いしか

 

9.あだ生えの鶏頭花は秋ひがんの墓前を飾る朱色のとさか

 

10.松本のサリン事件の遺族の父謝罪求むる心情(こころ)励ましたくぞ

 

11.竜彦ちゃん遊ぶすがた見るにつけ両祖母の悲痛を思いはかるなり

 

12.六年間それぞれの山への遺骨なれ一個の壺にやすらかなれと

 

13.雨上がり手合わす墓に一匹の青がえる見るそのみどり濃し

 

14.勝ち越しの力士の背中広々と引き上げ姿喝采つづく

 

15.戦中の思い出深き房総に台風上陸とか無事を祈る

 

16.台風の通過せしあと館山より梨届くとの電話に安堵す

 

17.吟行に訪ぬる湖畔なつかしく朽ちし欄干に過ぎ行き思う

 

18.くもり空おおう湖(うみ)の面はるかに見渡す家並のおぼろに

 

19.欄干に佇みおれば葦群の穂先の揺るるかすかなる音

 

      (明治二十三年)

20.十月三十日は教育勅語の発令日なり暗記せし思い出小学時代

 

21.福島国体の入場式に県旗持つ手元の重き旗手のかがやき

 

22.鳥取は三十番目の入場なり両陛下のみ前緊張の顔顔

 

23.晩秋の日差しの窓辺にとまりいる太めの蠅は動きの鈍し

 

24.鈴なりのすす玉の茎ゆるる葉にまぎれ入りたる大蟷螂に

 

25.霜月のひと月遅れの十三夜走る雲間におぼろ光(かげ)さす

 

26.立冬を暦は告げぬ、朝(あした)より風と霰に菊花乱れぬ

 

27.あやかりを受けしわが幸その長寿あやかりたしといで湯に誘わる       (三朝依山楼に)

 

28.それぞれの母を語りて三人のいたわり嬉し六十才台ら

 

29.尚徳に二十年通い頂きし賞状の声に感激あらた

 

30.足弱きわれ気丈夫なりて学べしは亡夫(つま)のお陰と感謝のかぎり
 
 

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