綾日記
米子医大病院へ


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190. 諦めし足のもろさに耐えかねて米子医大へ足を運べり (十二月十四日)


191. 入院は三ヶ月先と知らされて気落ちするやらほっとするやら


192. 病院で明るき心になりたるはわれより重き女あるを見て


193. 入院を待つ心の不安ある中に主治医への紹介電話うれし (輝子さんより)


194. かねてより覚悟の身なれ然れども手術日決りねむれぬ今宵 (二月六日医大より電話あり)


195. あれこれと眠れぬ夜半に冬風のガラス戸ゆすり吹きすさぶ音


196. いつもなら短歌もうかぶ夜半なるに今夜の目覚め瞑想ばかり


197. 前日に米子入りして翌朝の雪降る中を入院したり (二月十五日)


198. ガラス戸越し雪舞う空を眺めてはベッドの上で安堵のおもい


199. 病室は大部屋なれど窓際のベッドの位置は運の良きかな


200. 朝六時おはようございますと検温の挨拶で始まる病院の朝


201. 同室の女ばかりの賑やかさ痛み忘れるひと時あり


202. 入院の米子医大の雰囲気は米子なまりの人情味ありて


203. 覚悟せし手術日の朝祈るなり亡夫へのねがい守りたまへと (二月十五日)


204. 眼を閉ぢて亡夫よ娘よ息子らよ祈りをこめてそれぞれの顔


205. 頑張ってかんばってねのはげましの声を聞きつつ病室を出る


206. 静かなる病院の夜中にトイレの水の流れの大き音きく


207. 排便の辛さ沁々と身にしみる何気なく出来し無意識さ知る


208. 輝子氏に頂きしこの暖かきピンクの毛布は春の気配して


209. 見舞など米子まではと思いしにけさの輝子氏夢かとばかり (二月二十八日鳥取短歌会出席のため来米)


210. 頂きし豆腐ちくわを同室の人達と共にわれも美味しく


211. 酸素筒の圧力のひびき聞きつつ気が遠くなり吸い込まれたり (高圧酸素治療 二月二十九日より四月十六日まで)


212. 治療筒のまるい小窓より時計見ゆ秒針数え三百で五分


213. 二時間の酸素治療は長くしてあとの一時間は刻進まなく。


214. 二時間の高圧治療は筒の中医師に任せるスイッチひとつ


215. やっとこさ車椅子にてトイレ行く左右の舵の難しさ知る


216. 歩かれぬ病院なればナース等の優しき声は米子なまりにて


217. 同室のなかまの花瓶のさくら花病室内で櫻見するも


218. 久しぶり湯浴みしたれば傷あとを沁々ながめ針あと数う


219. 心待ちし湯あみ出来れば思い切り肩よりかける二三杯の湯


220. 今年またラッパ水仙の頃となり黄色の花に蝶の夢見る


221. 運よくも米子医大に入院中外人医師の診察を受く


222. 生れ来て七十五才の老いの年外人博士と言葉かわすも


223. 温顔の白髪博士のやさしさや主治医との会話何語なりしと


224. はからずも外人医師との会話にはこんにちはありがとうの言葉


225. 外人の名医博士に感激す足さわり痛くありませんかと


226. 運よくも外人医師の診察で右足手術が決定となり


227. 入院も長引くなれば菊づくり気にかけながら諦めるなり


228. 尚徳の入学手続き頼みては何時の日か行けるたのしみ待ちて


229. 友情のお陰で入学出来たれば名簿届きてわが名前読む


230. ようやくに車椅子が歩行器に変りしことのうれしき思い


231. 歩行器で廊下に出れば同病の女に会いては語りあうなり


232. 夜半目ざめトイレの後は寝つかれず想いを記す暗きベッドで


233. 夜半目覚めのカーテンごしに静かなる寝息の気配は老婆のねむり


234. 同室のグウグウ高く聞こえるは熟睡したる向いの女ぞ


235. 夜の九時消燈の合図にカーテンを互に引きて個室のやすらぎ


236. 思わずも輝子氏よりの宅急便豆腐ちくわに歌集をそへて


237. 送られし豆腐ちくわは人気あり初めて食むの老婆のありて


238. 米子での豆腐ちくわを室外の人達にもとわれの分無し


239. 真夜めざめ膝を撫でつつ数うれば百回なりて痛み安らぐ


240. 同室の愛らしき幼女さおりちゃんお目めぱっちり笑くぼもみえて


241. さおりちゃん一才なのに指をさしばあちゃん注射と痛そな顔する


242. さおりちゃんおぢちゃんおばちゃんばあちゃん看ごふねえちゃんと呼びわける




243. 夜廻りにぱっとカーテン閃めきて電池眩しく眠りの振りする


244. 入院も半年経ちて早や七月たなばた祭りの短冊を書く




245. 病室の幼児達と七夕さん短冊書きて笹まつりする


246. 病院の孫らと共に七夕さん童心にかへる七十五才は


247. わが部屋小、中、高生幼児らの孫と覚しき患者ばかりで


248. 三階の窓より見下ろす病棟の間庭のみどり梅雨さめに濃し


249. 三階のベッドに臥して眺む月みるみる中に雲間に走る


250. 雲間より出てし月冴えてまんまるくペンとることの明るさ嬉し


251. 水無月の満月ながめ冴える月真夜のひとりは身に余るなり


252. 寄せ書きの見舞いに記すうた仲間二十二人の名前なつかしく


253. 病院でがいな祭りの花火をばベランダで見る夜空の一瞬


254. ドーンドンと花火の音にせかされてチェッカー車で寝て見る女もあり


255. 祭りの日子にせがまれて母親のわた菓子買いてたこ焼きも買い


256. 同室に足切断の少女あり祖母の悲しみ身代わりたしと


257. 愛らしき少女の足の切断前本人知るや決断いかにと


258. 切断の手術前の点滴は強薬なれば頭髪の抜けて


259. 真夜でも帽子かぶりて過したるはにかみ顔の少女いとほし


260. 手術前食べたき物をと外食の父のいたわり察するに余りあり


261. 両足の手術が癒えて数うればベッド生活二百日を過ぎぬ


262. 入院中人との出合いたのしくて一冊に余る思い出写真


263. 退院を名残り惜しむかたまたまに足首捻挫で一週間のびる


264. 退院が一週間のびて八月末暦めくれば早や九月なり


265. 人工の関節なれば仲々に違和感ありて膝重もし


266. 退院し家で目ざめて浮かぶこと朝の検温ナースの挨拶 (九月四日)


267. 久々に家に帰りて裏庭の草の生えのびて背丈こゆがに


268. 諦めし菊づくりなれ菊鉢のさ庭に並ぶを淋しくながむ


269. 菊鉢の古株中で芽出したる小さきつぼみ見付けてうれし


270. 二百日の入院日誌を見なおして書きあらためば思いはめぐる


271. 両足の手術を終えて喜寿むかう老い道歩む人工関節で


272. 入院の思い出あらた去年この日雪舞う朝医大玄関


273. 去年の今日手術日なりと記しあり白衣着せられ覚悟せし朝


274. 外来で診察うける医大にて医師なつかしく病室なつかし


275. 外来でレントゲン待つ顔とかほ車椅子の人われもかくありしと


276. 今年夏又入院す今更に年だと言わずわれの主張は (日赤病院入院 平成元年八月〜十月 腰痛のため)


277. 日赤の三階の窓よりとうりゃんせの横断リズムを一日中聞く


278. 十五日の花火大会病室で窓あけ眺む久かたぶりに


279. 雨上る日赤前の銀杏の樹濃いやうすいや緑の並木


280. 思わずも折紙せしがえにしにて病棟中に飾られし蝶


281. 日赤の整形外科の待ち合いで足腰痛む媼ら口達者


282. 女部屋交通事故と農業での怪我などと老若おりて見舞それぞれに


283. 真夜中に高く長きいびき聞こゆ静けさ破るは男の部屋らし


284. 病室のすりガラス越しボタン雪舞い降る気配音なくうつる (日赤病院入院 平成二年一月〜四月 左肘骨折のため)


285. 雪の窓鳩の二三羽影うつすえさ求むるか餌やれもせず


286. 点滴のしたたり見つつ数かぞえ百、二百すぎ三百かぞう


287. よう降るなよう降るなあと褒める程よう降るなあと老婆の言える


288. 左手の肘の手術が幸いし右手で書けし不在者投票


289. 初めての不在者投票病院で車椅子の人松葉杖のひと


290. 病院で菜の花ずしの雛まつりお頭づきの鯛は目出度く


291. 日赤のお雛まつりの寿司ご飯人参梅に菜のつぼみそえて


292. 日赤のおひな祭りのあさり汁葱ぬた中に一粒のたにし


293. ギブス切る電気のこぎりブルブルッと手早く動く婦長のわざは


294. 身を任かす婦長の技のやさしさよ手早く動きて額に汗の


295. リハビリの若き先生やさしくて曲げてまげてのリズムに耐える


296. リハビリの曲げてまげてのかけ声に調子合わせて曲げてはのばす


297. 日赤の記念日の隊員は鯛と赤飯の祝膳ありて (四月一日)


298. 退院し七十五枚の日めくりを一度にめくる四月の二日


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