綾日記(その三)121−139


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121.一年の季節の行事めぐりくる五月節句の笹まきのかおり

 

122.わが短歌浄土宗新聞に載りしとて記念品届く生き甲斐覚ゆ

 

123.浄土新聞に我が名ありて鳥取とよめば確かなりと心ほほえむ

 

124.新一年生名札の「けいこ」を指で書く漢字おどりて判じかねおり

 

125.漸くにわれの書く「恵」にうなづきて顔見合わせぬ新一年生

 

126.萬本のあじさい祭りを報じおり吾はさ庭の数本を愛ずる

 

127.巣づくりの燕のために定休日も営業するとうガソリンスタンド

 

128.一方でスーパーマーケットの警備員は長い梯子で落とすとか

 

129.傍らで燕の泣き声を聞きて悲しい気持ちと新聞に読む

 

130.小つばめの巣立ちするまでとそっけなき店主の言葉新聞に褒める

 

131.寝そべって麦わら帽子かほの上梅雨晴れの原っぱ静かなり

 

132.あじさいは雨呼ぶ花と言うもよし梅雨さめに濡れ色あざやかに

 

133.やわらかな桃の実そっとくわがたの小さき爪先愛(いと)しくもあり

 

134.久びさに輝子さん宅を訪れて思わず手を握り声かくる

 

135.寝たきりのうつろな眼(まなこ)涙ぐみ握る手ごたえに握りかえせり

 

136.思い出を語りかければ「おう」「おう」とかすかな声に頬すりよせる

 

137.仏壇の夫君の写真は若々し五十余年前のおもかげを追う

 

138.輝子さん出合いの始めは二十代互いに若く夢持ちおりて

 

139.戦中戦後と歳を経て六十年余今寝たきり悲し輝子さん
 

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