綾日記(その四) 121−161


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121.丑寅を越え卯の年迎えたり米寿まではとわれの頑張り


122.新聞でひび、あかぎれの漢字を見る皮に軍とはなるほどと思う


123.月二回往復にタクシーに乗る運転手の名は篁(タカムラ)と読む


124.ガラス越し屋根やねの雪ながめおり漸くとけて黒瓦ひかる


125.毎夜聞くラジオのニュースは一時限ごとに報道早し


126.雪招くかみなりのひかり閃きて轟きの音せめて夕方なれ


127.幼な頃かみなり恐く蚊帳の中の母にしがみつきし懐かしさ


128.小さい春を見つけてみたい河原辺に空を見上げて春待つ気分


129.今年初の給食日福袋ありて色とりどりを写真にとりぬ


130.毎度乍ら腹の底まであったまる熱あつの味噌汁じゃがいもとろける


131.五目ごはんはたまごの黄、肉そぼろさやえんどうに苺のまっ赤


132.りんごにバナナキューイの緑ミカンの黄ヨーグルト和えは甘ずっぱくて


133.肉かとまがう串さしの鰺フライ口の中にて味たしかむる


134.春やよい暦めくれば黄の一面に朱の点々はラッパ水仙の芯


135.テレビにて野球見るより幼児らの象さんあそびに心安らぐ


136.久しぶりパジャマでおじゃまのテレビ見る二歳児のボタンかけやっとこさ


137.造幣局のさくら並木の通りぬけ明治十六年より百十六年目と聞く


138.造幣局の歴史と共に櫻花咲く二百二十本五百六十メートルの道


139.朝の五時早起きどりに始まりしラジオ番組は朝一番と呼ぶ


140.農家番組なりしより三十余年庶民向きなるさわやかさんと


141.夫逝きて三十回忌迎う今在らば卒寿となりぬ共に語らばや


142.あと三年の三十三回忌はままならず塔婆を立てて供養の気持ちす


143.祭礼の道すがら岡村宮司の言葉をうけぬわが師の如く


144.思わずも師の声聞きて顔合わすお元気ですかに生きる喜び


145.新横綱武蔵丸西郷どん似トキ誕生の話題とならぶ


146.あじさいの一株梅雨に色づきて濃き花さ庭の片隅かざる


147.点滴を受けながら長生きするものではないと老婆の一言本心なるや


148.侘びしくも長生き出来た喜びを短歌にのせたし梅雨季に入りぬ


149.テレビ小説すずらんの戦中にわれの過せし横須賀を思(も)う


150.ふるさとを離れての子育ての頃交流ありし大家の人たち


151.大家さんの庭のみかんは何時までも木に実りいて甘さなつかし


152.わが人生戦中戦後六十余年二代と続く横須賀館山


153.北海道と沖縄の地踏まず故飛行機に乗ること無し


154.横須賀は短歌づくりのきっかけ市忘れ得ぬ想い出なつかしき


155.館山よりの餅米はお供えもちに小豆など二十余年続く


156.沖縄の歴史はめぐる慰霊の日ぞくぞく集う遺族らの顔


157.ひめゆりの生き残り女の語りべは日焼けの顔に白髪まじる


158.君が代と日の丸の旗の思い出は小学校時代のえび茶の袴


159.高原の青空かける虹の橋暑中ハガキの涼しさ届けん


160.涼しさを呼びくるる芙蓉の花咲けるピンクの一輪やさしくみゆる


161.さぎ草の花の白鷺みどり葉の上をさかんに跳ぶさまにして


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