綾日記目次へ91.吾娘逝きてはや五十年おもかげはおかっぱ姿のままに現る
92.待望の一恵と名をつけたるに運命の糸のふっつり切れて
93.春秋の彼岸供養のご詠歌の賽のかわらに涙流せり
94.山寺の旅の思い出立石寺杖をたよりに石段のぼる
95.山形のりんごせんべい薄切りの赤き皮つきいてうがたなり
96.芭蕉庵の野菜せんべい薄切りの馬鈴薯人参南瓜まじる
97.高原の静けき集落干し柿のすだれ作業にはげむ村人
98.干し柿のオレンジ色のすだれとは想像するだに明るき甘み
99.丑どしを七つ重ねて八十五才牛歩の如くゆったり歩まん
100.丑どしを七つ重ねて八十五才牛の涎にあやかりたくぞ
101.南天の赤き粒つぶ初雪かぶる鳥の餌よけに雪融けねばと
102.新聞に砂利の贈り物と記事読みて小さな奉仕に老人への贈り物
103.老人の陰の奉仕に花の咲く新聞記事は砂利の贈り物
104.日曜日駐車場掃除の奉仕にと砂利の贈り物に町の花咲く
105.日曜日駐車場掃除のお礼にとトラック運ちゃんの贈り物
106.齢(よわい)重ねしみじみ感ず言葉あり長生きしてねの賀状のひと言
107.思いやりの賀状残りぬ斉藤さん生前に見る達筆のあと
108.こな雪の降りしきるなか笑顔みせ給食の声に心あたたまる
109.具たくさんの炊き込みご飯うれしくも熱き味噌汁チョコ二つ添う
110.春彼岸となりの墓に梅数本うめ愛でし女(ひと)への供花しのぶ
111.今年また造幣局の通り抜け人を見るかや花を見るかや
112.昭和の初めに甦る久松山歌友に手引かれ山道のぼる
113.二の丸のさくらの古木枝茂り低く垂れたるつぼみはかたし
114.二の丸に見渡す彼方ビル街に放送局の赤き鉄塔見ゆ
115.庭園の木陰を落つる瀧の水段差をなして静かに聞こゆ
116.夫婦連れの四国路巡る花へんろ八十八ケ所菜の花ばたけ
117.四国路の菜の花ばたけの老夫婦お茶の招待にほほえみすごす
118.春の空すげ笠かぶり脚絆がけ杖つく度に鈴の音ひびく
119.花へんろ五十歳台の夫婦づれ石黒姓とは顔しみじみと
120.百歳の姥のひと言身に沁みる嫁と仲良きことを第一にと