綾日記(その四) 31−60


綾日記目次へ

31.毎朝新聞よみてのたのしみは切り抜きしたき記事欄ありて


32.牛を越え虎に繋がるわが命生かされて尚齢重ねんか


33.寅年は千人針の思い出あり戦の悲しみ振り返りつつ


34.大晦日たったひとりに過ごす夜は紅白歌合戦をゆっくり聴きぬ


35.一人分の年越しそばを作り終え除夜の鐘きく数かぞえつつ


36.早大生のペルー事件父二人一縷ののぞみありのひと言


37.遺品の発見さるるも凛とした親ごころ察するに余りあり

(平成十年一月二十七日)


38.朝の五時ラジオにて聞く十九日のわが誕生日の花は君子蘭なり


39.君子蘭の花言葉は尊しとはもったいなくも有難きかな


40.君子蘭三鉢ありて今年も花咲く春を楽しみに待つ


41.きさらぎのカレンダーは横四段一週間ずつの四、七、二十八日


42.節分と立春と続く暦の上真冬の風はガラス戸ゆする


43.在りし日のやさしき言葉身に沁みて涙あふるる旅館のおかみさん
(渡部旅館、渡部みきさん)


44.訃報を知りお伺いしたくもままならず遅まきながら弔歌手向く


45.一年八(や)月口きけず眼(まなこ)だけのやさしさ残るおとうさん悼む
(木下茂さん、平成十年四月十六日)


46.お父さん電話の声は親しみの「アッおかあさん」と懐かしさ思(も)う


47.使い捨ての紙おむつ溢れおるなり肌にやさしき布感触欲しき


48.布おむつ竿一杯に並べ干しぴんと引張り日射しに当てる


49.川辺にておむつ洗いし子育ての日々なりしを懐かしみおり


50.長野五輪のメダル二コニ個笑がほ万歳の手上るメダルラッシュ


51.うさぎ追いしの歌ゆっくりと口ずさむ長野五輪の閉会式に


52.海底におぼろに滲む船名を大辞典にて對島と確かむ


53.沖縄の海底深く對島文字涙に錆びる五十三年振りの


54.ショベルカーの首の動きを指図する軍手の指は上下左右に


55.ショベルカー深々と土を掘り上げて春の天地に騒音をあぐ


56.母の日のカーネーションの花言葉は熱愛とは母を敬う心情(こころ)


57.母の日の小鉢のカーネーションは今年また力あふれて十数本咲く


58.犬の糞始末せよとの札の立ちて寺詣る道曲がり曲がり行く


59.常識をわきまえぬ人の多くして犬の散歩道寺詣る道


60.老いの身に花の香り良しと聞く季節を活けるあじさい二輪


トップへ   綾日記目次へ

inserted by FC2 system